読書

中世イタリア都市に関する入門書『イタリアの中世都市』亀長洋子

イタリア中世都市のアイキャッチ画像

中世ヨーロッパの都市というと範囲が広すぎて、イタリアのことをもっと知りたいけど何か良い本ないかなーと探していました。できれば、専門性が高すぎない、入門書のような本がないかなと……

ありました。

ありがたいお話です。

こんな人にオススメ

イタリア中世都市ってどんな感じだったのか知りたい

イタリア中世都市の成り立ちを知りたい

イタリア中世都市独自の制度が知りたい


『イタリアの中世都市』概要

著者紹介

本書の著者は中世イタリア史や都市社会史を専門としており、他にも中世イタリアに関する本を執筆しています。

世界史リブレット

本書は、山川出版社の世界史リブレットのうちの一冊です。世界史リブレットは100ページくらいの薄い冊子ですが、どれも専門家によって執筆されたしっかりとした資料です。

監修者は山川出版社・世界史Bの教科書執筆者で、高校の世界史の理解を深める目的でも読めます。

  • コンパクトでとっつきやすい
  • 高校生でも読める
  • 後ろに、入手しやすい参考文献の一覧が載っていて知識を広げやすい

こうした理由から、入門書として有用です。

中世イタリア都市に関する入門書

主に11~14世紀のイタリア都市について、制度や財政状況、住民などの視点から解説された入門書です。

タイトルどおり、イタリア独自の事情に関する記述が多いです。とにかく、ざっくりとでいいから中世イタリアについて学びたい! という方にオススメ。

註が多いので読み進めやすく、良質な入門書です。

『イタリアの中世都市』感想

都市ごとに違う成り立ち

イタリアといえば、中世には統一国家がなく、19世紀にようやく統一されました。

なので、当然といえば当然なのですが、都市ごとに中世都市のなりたちも随分と違います。

ざっくりまとめてしまうと、こんな感じでした。

  • フィレンツェ:紀元前から記録が残る、歴史ある都市。司教や伯などの勢力からがんばって自治を獲得したのが、12世紀。
  • ヴェネツィア:ローマ帝国時代から名前が確認できる。11世紀のビザンツ帝国に認められて独立。
  • ジェノバ:ローマ帝国の属州だった。ムスリムの侵入を受けていたが徐々にやり返すようになり、11世紀に都市の原型となる誓約団体が確認される。

事情は様々ですが、いずれの都市も、がんばって独立しようとしていた姿勢が見受けられるように思いました。

公平・平等であろうとする中世イタリアの諸制度(詳細は後述)は、大きな勢力に押さえつけられるのを嫌って独立した背景があったからこそ、生まれたものなのかもしれないですね。

イタリア独自の制度

中世イタリアの制度は、公平・平等を重んじるところに特徴があります。

もちろん、都市に住んでいるすべての人が平等、というわけではなく、場合によっては一部のメンバーの中だけで平等ということにもなりますが……。

個人的に、ジェノバとヴェネツィアの例が興味深かったのでご紹介します。

ジェノバの重要決定は鐘から始まる

ジェノバでは、重要決定の際には鐘を鳴らして参加希望者を募り、話し合いと投票で意思決定をしていたそうです。これについては、かなり平等と言って良いでしょう。

なんやかんやで特定の人に権力が集中しがちなところ、できるだけ平等であろうとする姿勢は見て取れます。

ヴェネツィアの最高指導者は厳正なる抽選で決定

ヴェネツィアのドージェ(最高指導者)は、厳しい抽選制で選ばれていたようですが、あくまでも特定のメンバーの中からの選出だったので、手放しに平等と言うことはできないでしょう。

ただ、抽選係は無作為で抽出した子ども&気の遠くなるような回数の抽選を行うという仕組みからは、絶対に不正を許さず、メンバー内だけでも平等であろうとしたことが伝わってきます。めっちゃめんどくさい。

イタリア各地の財政状況

中世イタリアの支出と収入の内容は、ざっくり以下のとおりです。

  • 支出:戦争、公共建築、貧民救済
  • 収入:間接税(城門の関税、売上税、屠殺税、粉税、犯罪者の財産没収などなど)、直接税、公債

この時点で間接税・直接税・公債の概念ががっつりあるのが、もう世知辛い……。

そもそも間接税からスタートして、限界が来たので直接税と公債でも収入を得るようになったという流れです。

間接税が多様すぎるあたり、なんとかして間接税でまかなおうとしていた→足りないから直接税と公債も導入した→多様すぎる間接税は残った、という流れなのかな、とか考えてしまいます。

それにしても、これだけ徴収してなぜ足りなかったかというと、支出の「戦争」のせいです……こればっかりは、どんだけお金あっても足りないですからね……。

直接税は、各家庭の財政状況に応じて徴収されたそうなので、当然、都市が各家庭の財政状況を把握していたことになります。

つまり、どの職業の人がどれくらいお金持ちだったかという資料が残っているわけです。

本書に資料が掲載されていましたが、毛織物や金融業が強かったことがうかがえます。この二つは、イタリアに限らずどこの都市でもあまり変わらないみたいですね。都市ごとにちょっと差があるのも興味深いです。

当時の住民からしたらたまったものじゃないでしょうが、ありがたく活用させていただきましょう。

中世イタリア都市の概要がわかる、良き入門書

イタリアの独自の事情もわかりますし、普通に中世ヨーロッパの都市について理解を深めたい場合にも良いと感じました。状況が特殊なのでそこは考慮する必要がありますが!

それぞれの都市について、さらに調べてみたいと思わせてくれるような、良い本でした。

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関連書籍

本書の前もしくは後に読むと楽しめそうな本をあげてみました。

  • 『中世イタリア商人の世界』清水広一郎著、平凡社、1993年

14世紀イタリア商人に関する書籍です。

  • 『図説 中世ヨーロッパの暮らし』河原温著、河出書房新社、2015年

都市だけではなく農村についても触れられています。タイトルどおり、図版が多いのが特徴。

書籍情報

タイトル イタリアの中世都市(世界史リブレット106)
著者 亀永洋子
出版社 山川出版社
出版年 2011
ページ数 90