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ケルトを美術・神話から読み解く『図説ケルトの歴史:文化・美術・神話をよむ』感想

図説ケルトの歴史アイキャッチ
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ケルトの歴史を、美術や神話から考察する本をご紹介します。

図版が多く文章も平易で、入門書としてかなりオススメです。

こんな人にオススメ

ケルトの美術の概要を知りたい

ケルトの神話の概要を知りたい


『図説ケルトの歴史:文化・美術・神話をよむ』概要

ケルト美術の専門家と比較神話学の専門家による共著

本書の著者の概要は下記のとおりです。

鶴岡真弓:ケルト芸術文化学専門。『ケルト 装飾的思考』『ケルトの想像力』等の著者。主に本書の美術にかかわる箇所を担当。

松村一男:比較神話学・宗教学専門。『神話学講義』『世界神話事典』等の著者。主に本書の神話にかかわる箇所を担当。

ふくろうの本

河出書房新社より発刊されているシリーズ。すべての書籍のタイトルに「図説」が含まれていることからわかるとおり、図版がたくさん使用されているのが特徴です。

  • そんなに分厚くない(多くは100ページ少々)
  • 内容も入門者向けでわかりやすい

以上のことから、これから勉強したい方にオススメのシリーズです。

西洋史が多い印象はありますが、日本史やそのほかの国についての書籍もあります。

(河出書房新社「ふくろうの本」の案内ページはこちら

 ケルトの歴史を美術・神話から読み解く本

ケルトとは、ケルト語を話す文化集団であり、民族ではありません。

では、ケルトの文化って何? というところを、「ケルト」を妖精の国のような幻想的で隔絶されたものとして見るのではなく、実際にヨーロッパ文化と干渉しあって来たことを考慮しつつ、主に美術や神話をとおして詳しく見ていくことになります。

『図説ケルトの歴史』感想

以下、個人的に印象的だった部分と、それについての感想をご紹介します。

異教とキリスト教の融合美術を、豊富な図版とともに語る

ケルズの書画像

KellsFol034rChiRhoMonogram“. Licensed under パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.

ケルト十字架や、ケルズの書(上図参照)に代表される装飾写本などについて、豊富な図版を交えて論じています。

装飾写本

装飾写本とは、修道士が聖書を写した本のうち、まるで美術作品のように装飾したものを指します。

ギリシア・ローマが人間を石像にしたり絵に描いたりすることが多いのに反して、人物表現を特徴化しない「ノン・フィギュラティブ」が特徴です。

特徴化しないだけで実はこっそり人の顔を模した絵が描かれていることもありますが、中心にあるとは言えません。

そして、キリスト教ではあまり見ないような、動物の絵も豊富で、異教的な文化とキリスト教の文化が融合した結果として、代表的なものと言えそうです。

なお、ケルズの書をはじめとする装飾写本について、ケルトの文化とすることには懐疑的であるという学説もあります。

異教時代からキリスト教時代に至るまでの1000年、同じ文化が維持されたとは考えにくいとのこと。

詳細を知りたい方は下記の書籍もチェックしてみてください。

ケルトの水脈アイキャッチ
ケルトとは何かを徹底的に考察する『ケルトの水脈』原聖「ケルトの水脈」のレビュー記事です。「ケルトとは何なのか」という方にオススメ。...

ケルト十字架

装飾写本にも見られるようなたくさんの環や紋様、キリスト教の図像が描かれた石の十字架です。

もともと石への信仰があったところ、キリスト教の流入により融合して、キリスト教の図を刻んだと言われています。

ちなみに、ケルトで石といえばストーン・ヘンジをはじめとする巨石文化が思い浮かびますが、ブリテン島のストーン・ヘンジなどはケルト人がやってくるよりも前に存在していたため、ケルト人が作ったものではありません。

ただ、巨石を信仰する文化はあって、ストーン・ヘンジは妖精のすみかであると信じられていたという話も、本書では触れられています。

つづり
つづり
確かに、どうやって運んだのかもわからないような大きな石の遺跡がたくさんあったら、否が応でも日常的に目にするわけで、信仰が芽生えたのもうなずけますね。

だから、ケルト人が作ったものではないけれど、ケルト文化の一部であったことは確かなのだろうと思います。

人頭崇拝

紀元前1世紀の歴史書に、ケルト人が戦場で首狩りをして、敵将の首を大事に保管している様子が記述されているそうです。

本書にも、柱にインテリアのように頭蓋骨を埋め込まれている写真が掲載されています。

本書でも語られていることですが、首狩りの文化は「野蛮」というイメージが先行しますが、農耕文化に一般的な習慣で、豊作祈願によるものだそうです。また、首狩り自体は世界各地にあって、特にケルト独自のものではありません。

つづり
つづり
ケルトというと装飾写本や十字架などの幻想的なイメージがかなり強いので、こういう、どこにでもあったような残酷な文化もあったんだと知ることは重要だと感じます。

いや、どこでもあるとは言っても、著者曰く、ケルト人の頭に対する思い入れはかなり強かったようですが……。

また、首狩りは英語でhead huntingというと初めて知って少々驚きました。日本語としてもヘッドハンティングってよく使われますけど、もともとはそういう意味だったんですね……へえ、ふうん……という気持ちです。

神話の記述は11世紀以降のもの

古代ケルト人には文字で文化を残す習慣がなかったので、最古のケルト神話は11世紀に記録されたものでした。キリスト教化から何百年も経った後です。

ケルト独自の文化が失われていたわけではないようですが、キリスト教が異教の文化をそのまま受容したとは思えず、何かしら形を変えて記録されたことが予想されます。

異界の住人である妖精は、信仰されず力を失った妖精であるとされていることからも、キリスト教化の影響が垣間見えます。

掲載されていた神話で印象的だったのは、8世紀に成立したとされる「聖ブレンダンの航海」でした。

「聖ブレンダンの航海」は、「約束の地」を求めて海を漂流するキリスト教徒のお話です。

これだけだとキリスト教徒が作った話にも思えますが、ケルト人は西の海のかなたに海上異界があると信じていたようで、他にも西の海を冒険して不思議な体験をする航海譚はたくさんあります。

「聖ブレンダンの航海」の、キリスト教徒が異界の不思議な島々を訪れる、という構図は、キリスト教とケルトの異界信仰の融合の典型例といったお話で、とても参考になるなと感じました。

つづり
つづり
ちなみに、古代ケルト人が文字を残さなかったのは、決して文化のレベルが低かったからではなく、文字を残すことを忌避する文化だったからです。下記の書籍でも解説されていますので、興味のある方は手に取ってみてください。
ケルトの水脈アイキャッチ
ケルトとは何かを徹底的に考察する『ケルトの水脈』原聖「ケルトの水脈」のレビュー記事です。「ケルトとは何なのか」という方にオススメ。...

まとめ: ケルトの美術や神話に関する入門書

古代ケルト、中世ケルトの美術や神話のことがざっくりわかる本でした。文章も平易で、入門書として最適だと思いました。

巻末には比較的入手しやすい参考文献一覧も掲載されているので、自分の興味に応じて調査を広げることも可能です。

書籍情報

タイトル 新装版 図説ケルトの歴史:文化・美術・神話をよむ
著者 鶴岡真弓・松村一男
出版社 河出書房新社
出版年 2017

※本書は1999年初版の新装版です。

ページ数 143