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中世ヨーロッパの農村に関する入門書『中世ヨーロッパの農村世界』堀越宏一

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中世ヨーロッパの農村について、成り立ちから中世の終わりまでの流れを一通り紹介してくれる入門書についてご紹介します。

こんな人にオススメ

中世ヨーロッパの農村の歴史が知りたい

中世ヨーロッパの農村の生活が知りたい


『中世ヨーロッパの農村世界』概要

著者はヨーロッパ中世史の専門家

本書の著者はヨーロッパ中世・近世史を専門としており、他にも中世ヨーロッパの歴史に関する本を多数執筆しています。

他の書籍『図説中世ヨーロッパの暮らし』の農村の章と重なる部分がかなりありますが、そうでない部分もあります。詳しく知りたい場合は両方チェックすることをオススメします。

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世界史リブレット

本書は、山川出版社の世界史リブレットのうちの一冊です。世界史リブレットは100ページくらいの薄い冊子ですが、どれも専門家によって執筆されたしっかりとした資料です。

監修者は山川出版社・世界史Bの教科書執筆者で、高校の世界史の理解を深める目的でも読めます。

  • コンパクトでとっつきやすい
  • 高校生でも読める
  • 巻末に、入手しやすい参考文献の一覧が載っていて知識を広げやすい

などの理由から、入門書として有用です。

参考:山川出版社公式ホームページ 世界史リブレットの他の書籍はこちら

中世ヨーロッパの農村に関する入門書

中世ヨーロッパの農村について、

  • 6世紀くらい~10世紀半ば
  • 10世紀半ば~13世紀末
  • 13世紀末~16世紀はじめ

この三つの時代に分けて解説されています。

典型的な「中世」と言われるのは「13世紀末まで」がメインであることから、本書のページ数も「13世紀末まで」が多めです。

註が多いので読み進めやすく、良質な入門書です。

『中世ヨーロッパの農村世界』感想

本書の内容で、個人的に興味深いと感じたところをご紹介します!

農業革命前から、土台はあった

11世紀くらいに、農業革命という、農業技術などの目覚ましい発達がありました。

要素はたくさんありますが、ざっくり三つほどあげると以下のとおりです。

  • 水車・風車の発達
  • 鉄製農具の使用が広まる
  • 三年輪作の採用

本書によれば、すでにカロリング朝時代から、技術の向上により水車の使用が確認されているほか、一部地域では三年輪作も実施されていたようです。

もちろん、それらが本格的に広まっていくには11世紀以降を待つ必要がありますが、11世紀に突然発明された手法ではなかったんですね。

その証拠に、農業生産力はそれほど高くなかったので、11世紀以前は農業だけでなく牧畜がかなり重要であり、手作業の多い葡萄栽培が広がったそうです。

本書からは、こういった歴史の流れが随所に感じられて、農村の歴史がよくわかります。

中世後期の農民は、かなり良く食べていた

11世紀の農業革命以降、農業生産力が向上し、農民たちが豊かになりました。

もちろん、みんながみんな豊かになったとまでは言えませんが、全体的に生活の質が向上したことは確かなようです。人口増加がその証拠にもなるでしょう。

昔の農民というと、みんなすごく貧しくて食うに困っていたようなイメージがなくもないですが、中世後期、13~15世紀くらいの農民は比較的良く食べていたようです。

主に食べていたものは以下のとおり

  • パン
  • そら豆・えんどう豆
  • たぶん肉
  • ワイン・ビール

肉についてはどれくらい食べられていたか、ちょっと微妙です。肉よりも豆などの植物性たんぱく質がたくさん摂取されていたのは確かなようですが、11~13世紀の村落遺跡からは結構な数の牛の骨が出てきたとのことなので……意外と、食べてた、かも。

農民は、森での猟を禁止されていたこともあり、肉はほとんど食べていなかったというイメージもありますが、もしかしたら我々の想像よりもよく食べていたのかもしれません。

ちなみに、当時の農民の摂取カロリーは3000キロカロリー(おそらく一日当たり)だったそうです。

現代の場合、理想的な摂取カロリーは以下のとおりらしいです。

活動量の少ない成人女性の場合は、1400~2000kcal、男性は2200±200kcal程度が目安です。

農林水産省 食事バランスガイド丸わかり

一日中外で農作業しなければならないので必要カロリーも多いでしょうが、それにしたって、結構よく食べてたみたいですね。

中世末期の停滞期は、トリプルパンチどころではない騒ぎ

 農業革命による生産性の向上と人口増加に歯止めがかかったのは、13世紀末ごろでした。

  • 開墾しやすい土地は開墾しきってしまった
  • 既存の土地の地力が落ちた
  • 農作業に忙しかったので家畜の数が減っていた
  • 寒冷化
  • 飢饉
  • 黒死病

このうち、寒冷化は確かにとても有名なのですが、実はそれまでと比べて1℃くらいしか変わらなかったらしいです。そのため、寒冷化は飢饉の理由にならないという研究者も存在するようですが、当時の農業生産力を考えると、わずか1℃でも大きな影響があったのではないか、というのが本書の筆者の意見です。

確かに、平均気温が前年より1℃下がると、現代でもわりとニュースになるような気がしたので、本書の内容から少し離れますが、調べてみました。

気象庁より、東京の8月の平均気温です。

  • 2015年26.7℃
  • 2016年27.1℃
  • 2017年26.4℃
  • 2018年28.1℃

参考 気象庁 東京 日平均気温の月平均値(℃)

1度も違わないですが、2017年が少し低いですね。調べてみると、記録的な冷夏なるかも、とニュースになってました。

参考 Yahooニュース 東京の8月は「1993年大冷夏」以来の真夏日の少なさに?

もちろん、現代の情報は参考程度にとどめていただきたいのですが、確かに、1℃下がると農業生産に影響が出る可能性は大いにある、と考えても良いような気がしました。

それにしても、泣きっ面に蜂どころではない騒ぎですよね……寒冷化だけでも、疫病だけでもなく、いろんな状況が組み合わさって、中世の農村は終わりを迎え、次の時代へと移行していきます。

ちなみに、13世紀くらいまでの農村の遺跡が現代にも残っているのは、この時期に廃棄された村がそのまま残っていたからだそうです。

中世ヨーロッパの農村の歴史がわかる本

中世ヨーロッパの農村がどのように成り立ち、どのように発展し、そしてどのように次の時代へつながっていったのかがわかる本でした。

いつも思うけど、100ページ足らずでこの手の歴史まとめるのすごいですよね……ありがたや。

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関連書籍

本書の理解をさらに深めたいときは、こちらをどうぞ。

『中世ヨーロッパの農村の生活』ジョセフ・ギース、フランシス・ギース著、講談社学術文庫、2008年

書籍情報

タイトル 中世ヨーロッパの農村世界(世界史リブレット24)
著者 堀越宏一
出版社 山川出版社
出版年 1997
ページ数 90