この本を読む前、私は、
テンプル騎士団とは、つまり何者?
と、思っていました。
言葉だけはよく聞くけど、結局何してたのか全然頭に残っていない、謎に包まれた集団。私の知識不足によるところも大きいと思いますが、どうもそれだけではなさそうです。
本書の帯に、こう書いてありました。
彼らは何者だったのか
引用元:『テンプル騎士団全史』ダン・ジョーンズ著、ダコスタ吉村花子訳、河出書房新社、帯
なんか安心しました。
テンプル騎士団とは何者なのかを知りたい
テンプル騎士団創設から崩壊までの歴史を知りたい
『テンプル騎士団全史』概要
テンプル騎士団とは、戦士であり巡礼者であり銀行家
本書は、テンプル騎士団とは何だったのかを、明らかにする本です。
テンプル騎士団の役割ごと(「巡礼者」「戦士」「銀行家」「異端者」)に章立てがされているとともに、1119年にイェルサレムで設立されてから、フランス王によるわけのわからない言いがかりで騎士たちが異端審問にかけられて崩壊するまでの通史が詳細に描写されています。
タイムズ紙等で絶賛されるなど、世界的なベストセラーになりました。
著者は歴史ジャーナリスト
著者は、イギリスの歴史ジャーナリスト。1981年生まれということで、歴史家としては若い方という印象を受けます。
本書以外には薔薇戦争やヘンリー7世に関する著作でも有名だそうです。そっちも邦訳されるといいな……。
『テンプル騎士団全史』感想
ドラマチックな筆致で読みやすい
著者が大学の教授ではなく、歴史ジャーナリストということもあってか、通常の専門書よりも非常にわかりやすい解説書です。ほんのり小説風に描写されているのも、読んでいて楽しいところです。
本書終盤、最後のテンプル騎士団長モレーについての描写を以下に引用します。
テンプル騎士団の将来を確かなものにして、次の十字軍のめどをある程度つけて帰ってこよう。そう彼は考えていた。
だが彼がふたたびキプロスを目にすることはなかった。引用元:『テンプル騎士団全史』ダン・ジョーンズ著、ダコスタ吉村花子訳、河出書房新社、P367
それでいて、怪しげな説をおおげさに語るのではなく、膨大な参考資料を根拠に、テンプル騎士団の実像を明らかにしようという姿勢が随所に感じられるので、安心して読み進めることができます。絶妙なバランスに脱帽。
ただ、文章は簡潔で読みやすいですが、あくまでもイギリス人が書いたものなので、中世ヨーロッパに関する用語については「読者が知っている」前提でどんどん話が進みます。(例:フランク人、十字軍など)
なので、高校生のときに世界史(中世ヨーロッパ史)をあまり勉強しなかったor完全に忘れたという方は、わからない言葉が出てくると思いますので、調べつつゆっくり読み進めてみてくださいね。ぐぐればだいたいなんとかなります。
設立目的は「巡礼者の保護」
本書によると、テンプル騎士団の設立目的は「巡礼者の保護」です。
それでいて、十字軍に参加し、命をかけて戦う戦士でもあり、多くの財産を抱えた銀行家でもあるというのは、どういうことでしょうか。
それは、十字軍に参加するのも「巡礼者の保護」のためで、キリスト教徒たちのために戦っていたらいろんな人から寄進を受けていつの間にか財産が膨れ上がり、銀行家のような役割を果たすことにもなったから、ということのようです。
貴族たちがテンプル騎士団に自らの財産を預けていたようですが、それも、テンプル騎士団が巡礼者を保護するために各地に砦を築き、守りを固めていたからです。
巡礼者であり戦士であり銀行家と、テンプル騎士団の役割は色々ありますが、目的(巡礼者の保護)が変わらないことを念頭に置いて読み進めると、理解が早いと思います。
ただ、本書のページ数としては戦士としての描写が圧倒的に多く、「銀行家」や「異端者」の章でも戦いの話がじゃんじゃん出てきます。十字軍に参加しまくっていたので当然かもしれませんが。
個人的には、第二回十字軍で、フランス国王ルイ7世がテンプル騎士団に指揮権を丸投げした話が面白かったです。よっぽど自軍がお粗末だったみたいですね……。
崩壊の経緯がえぐい
本書で語られているテンプル騎士団崩壊の経緯は、下記のとおりです。
ヨーロッパ各地に拠点を持つ超巨大組織に成長していましたが、崩壊のきっかけはフランスにありました。
当時金融危機にあえいでいたフランスの国王フィリップ4世は、なんとかして資金を集めようと画策した結果、テンプル騎士団の資産をふんだくることを思いつきました。
騎士団を潰せばその資産をいくらか手に入れることができると考えたフィリップ4世は、フランス国内のテンプル騎士団の資産を差し押さえた上で団員をとっつかまえて、あれこれ理由をつけて異端審問にかけます。
その中で、「同性愛はあった」という証言を引き出したが最後、フィリップ4世は徹底的にテンプル騎士団員を追いつめます。結果、数多くの騎士が命を落としていきました。
しかも、フランスのテンプル騎士団を潰すだけでは飽き足らず、外国の王にまで、テンプル騎士団を捕まえろと手紙を送る始末。
さすがに外国では、フランスほどの強烈な異端審問は行われなかったようですが、それでも、各地のテンプル騎士団も徐々に消滅していきました。
以上が、テンプル騎士団崩壊の経緯らしいですが、フィリップ4世の発想が完全に強盗犯です。やばすぎる。お金持ちからお金を盗もうとしてるだけですからね。
同性愛などの異端要素がどこまで本当だったのかは不明ですが、一応、実際にあったらしいです。ただ、もうすでに騎士団内で処分が済んでいたし、別にみんながみんなやらかしていたわけでもないので、わざわざフランス国王が異端審問をするほどの事実ではなかったはずなのですが……フィリップ4世にとっては、実際にあったという証言が得られただけで十分だったようです。
外国まで巻き込もうとしていたあたりになると、もう「何がしたかったんだ」感が否めません。外国のテンプル騎士団が解散しても、その財産はフランス国王の懐には入らない気がするのですが。色々やってたらいつの間にか、徹底的にテンプル騎士団を潰したくなっていたのでしょうか。
実際に、国外の資産のほとんどはヨハネ騎士団に引き継がれたそうです。せめてフランスの懐に入らなくて良かった、と考えるべきでしょうか。
まとめ:テンプル騎士団の通史がわかる良書
テンプル騎士団の始まりから終わりまでが一通りわかる、とても興味深い本でした。
この記事ではあまり取り上げていませんが、十字軍遠征に関する描写もかなりありましたので、単純に十字軍の違う一面が見たいとか、中世の戦争について知りたい場合にもオススメの一冊です。
書籍情報
タイトル | テンプル騎士団全史 |
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著者 | ダン・ジョーンズ |
訳者 | ダコスタ吉村花子 |
出版社 | 河出書房新社 |
出版年 | 2021年 |
ページ数 | 497 |